Always『Intimate Words』| 2015

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1.全体概要
・P&Gの生理用品ブランド「Always」が、メキシコ・オアハカ周辺の先住民女性を対象に行った、子宮頸がんの早期発見を促すヘルスコミュニケーション施策。
・課題は「医療アクセス」ではなく、女性の生殖器官や症状を表す“言葉そのもの”が先住民言語に存在せず、病状を説明できないという文化的タブーと言語ギャップだった。
・AlwaysとLeo Burnett Mexicoは、社会学者・医師・言語学者・地元女性と共に、新しい「親密な言葉(Intimate Words)」の語彙を共同開発し、辞書のような一冊の本にまとめた。
・これにより、先住民女性が自分の身体を自分の言葉で語れるようになり、子宮頸がんという“サイレントキラー”に対して、コミュニケーション面からアプローチした点が特徴。

2.文化的タブーが生んだ「言葉の不在」という課題
・オアハカ周辺の先住民コミュニティでは、性や生殖に関する話題は強いタブーで、女性の生殖器官や症状を表す語彙が先住民言語にほとんど存在しなかった。
・その結果、女性たちは違和感や痛みを感じても、それを医師に説明できず、受診や治療のタイミングが遅れがちだった。
・子宮頸がんは、これらコミュニティの女性にとって主要な死因のひとつとされ、医療情報の不足というより「語彙の不足」が命に直結する構造的な問題になっていた。
・さらに、スペイン語が十分に話せない女性も多く、スペイン語で用意された従来の啓発資料は、彼女たちの母語と身体感覚のあいだに橋を架けきれていなかった。

3.「新しい言葉をつくる」アイデアと仕組み
・AlwaysとLeo Burnett Mexicoは、「足りないのは医者ではなく“言葉”だ」という発想から、先住民言語に女性の身体を説明するための新しい語彙を創出する、言語開発型のキャンペーンを企画。
・社会学者・医師・言語学者のチームが、現地女性たちとワークショップ形式で対話しながら、既存のタブー表現を避けつつも本人たちが受け入れられる「やさしい言葉」「比喩的な表現」を共同で作っていった。
・新しい語彙は、子宮や卵巣などの器官だけでなく、「焼けるような痛み」「重さを感じる」といった症状の感覚も説明できるように設計されていると紹介されている。
・完成した言葉はイラスト付きで編集され、「Intimate Words(親密な言葉)」という一冊の本としてまとめられ、女性たちが世代を超えて受け継げる“新しい母語の教科書”のような存在を目指した。
・One Showのケースによると、これらの言葉は先住民言語の一つであるZapotecoに正式に導入され、女性の生殖器官を指す語彙が初めて体系化されたとされる。

4.書籍化・現場実装による行動変容
・本にまとまった新しい語彙は、地域の女性たちに配布され、母娘や家族の間で回し読みされることで、家庭内での会話や身体教育の“きっかけ本”として機能した。
・医師やヘルスワーカーは、この本の語彙を使って問診を行うことで、従来は曖昧だった症状の伝達を、患者の母語ベースで具体的に聞き取れるようになったと報告されている。
・キャンペーンはブランデッド・フィルムとしても制作され、女性たちが自分の身体を語り始める姿をドキュメンタリー的に見せることで、ヘルスケアの現場だけでなく広く社会に問題提起を行った。
・結果として、子宮頸がんというテーマにもかかわらず、「泣ける」「笑える」ヒューマンタッチなムードで多くの視聴者の感情を動かし、ヘルスキャンペーンとして異例の広い共感を獲得したと評価されている。

5.カンヌでの評価ポイントとクリエイティブ上の示唆
Lions Health(Health & Wellness部門)でグランプリを受賞し、メキシコにとって初のカンヌ・グランプリ受賞作となったほか、同部門のシルバーやOutdoorのブロンズ、PR部門のシルバーなど複数のライオンを獲得している。
・Cannes側の公式レポートや審査員コメントでは、「深い人間理解に根ざした、人生を変えうるアイデア」「コミュニティと共創したクリエイティブ・プロブレムソルビング」といった点が高く評価された。
・広告としては“言葉”という無形のアウトプットを主役に据え、「新しい語彙=新しい行動・選択肢」という構造をデザインしたことで、ブランドの役割を「商品を売る存在」から「生き方のインフラをつくる存在」へと拡張している。
・Alwaysは同時期の「#LikeAGirl」とあわせて、女性の自己認識や身体へのまなざしを変える“ブランド・フェミニズム”の代表例とされており、その中でも本施策は「言語」「教育」「ヘルスケア」をつなぐ社会的実装型のアプローチとして、長期的なベンチマークケースとして位置づけられている。
・クリエイティブの示唆として、「タブー領域では、メッセージよりもまず『話せる文法』をつくる」「インフラをつくるようにブランドユーティリティを設計する」という発想の転換が、ヘルスやジェンダー課題において特に有効であることを示している。

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