ANZ『GAYTMs』| 2014

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  1. 全体概要
    ・オーストラリアの大手銀行ANZが、シドニーで開催される世界最大級のLGBTQ+の祭典「シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラ」の公式パートナーとして実施したキャンペーンです。
    ・シドニー市内の10台のATM(現金自動預け払い機)を、ラインストーンやスパンコール、レザー、ファーなどで装飾し、ド派手で芸術的な「GAYTM(ゲイティーエム)」へと作り変えました。
    ・この施策は、単なるビジュアルの変更にとどまらず、寄付の仕組みやSNSでの拡散を組み合わせた統合的なブランド体験として設計されました。
    ・2014年のカンヌライオンズでは、その大胆さと実行力が評価され、アウトドア部門のグランプリ(Grand Prix)をはじめとする数々の賞を総なめにしました。

  1. 背景と課題:形骸化したスポンサーシップからの脱却
    ・ANZ銀行は長年マルディグラのスポンサーを務めてきましたが、ブランドが「本気で多様性を支持している」という実感が、コミュニティや一般層に十分に伝わっていないという課題がありました。
    ・銀行という保守的で「堅い」イメージが先行する組織が、いかにして「多様性、包摂、尊重」という価値観を、真実味(オーセンティシティ)を持って表現できるかが大きな挑戦でした。
    ・当時、大手ブランドによるLGBTQ+支援は「ピンク・ウォッシング(上辺だけの支援)」と揶揄されるリスクもあり、単なるロゴ掲出以上の「大胆なコミットメント」が求められていました。
    ・「自分たちの世界で生きる(Live in your world)」というブランドプロミスを体現するため、顧客が毎日利用する最も身近な接点であるATMを、メッセージ発信のメディアとして再定義する必要がありました。

  1. アイデアと実装:機能的なインフラを「祝福のシンボル」へ
    ・シドニー市内の主要拠点にある10台のATMを、地元のアーティストたちが1台ずつ異なるテーマで手作業で装飾しました。
    ・装飾には62万個以上のラインストーン、スパンコール、スタッズ、さらにはデニムやユニコーンをモチーフにした意匠が凝らされ、それぞれに「Hello Sailor」「Unicorn Dream」といった名前が付けられました。
    ・ATMの画面上には「Hello gorgeous(こんにちは、美しき人)」「Cash out and proud(誇りを持って引き出しを)」といった歓迎のメッセージが表示される仕様に変更されました。
    ・利用時に発行されるレシートは虹色(レインボー)で印刷され、さらに他行のカード利用者が支払った手数料は、LGBTQ+の若者を支援する慈善団体「Twenty10」に全額寄付される仕組みを構築しました。

  1. 成果と社会的評価:世界を動かした圧倒的なエンゲージメント
    ・キャンペーンは瞬く間に世界中へ拡散され、70カ国以上で6,200万件以上のメディア・インプレッションを獲得し、ソーシャルメディア上のセンチメント(感情)は90%以上がポジティブなものでした。
    ・ANZ銀行は、FacebookやTwitter、Instagramにおいて、オーストラリアの全銀行の中で最高レベルのエンゲージメント率を達成し、ニューサウスウェールズ州を中心に数千人の新規顧客を獲得しました。
    ・カンヌライオンズの審査員からは「ブランドが単にアイデアを提示するだけでなく、その実行においてブランドの魂を注ぎ込んでいる」と、その誠実さと勇気が高く評価されました。
    ・物理的な「破壊(Vandalism)」の被害も一部でありましたが、銀行側はそれを隠すことなく公表し、むしろ多様性への揺るぎないコミットメントを再確認する機会として活用し、ブランドへの信頼をさらに深めました。

  1. クリエイティブの示唆:日常の接点を「感情のメディア」へ
    ・銀行にとって最も「事務的で無機質」な接点であるATMを、最も「祝祭的で感情的」な体験の場へと転換させた発想の逆転が、この施策の最大の勝因です。
    ・社内の「プライド・ネットワーク(当事者やアライの職員グループ)」との連携や、長年の支援実績という裏付けがあったからこそ、派手な装飾が「単なる奇策」ではなく「真摯なメッセージ」として受け入れられました。
    ・既存の物理的なインフラをメディアとして活用することで、追加の広告枠を購入することなく、街そのものをブランドのストーリーを語る舞台に変えられることを証明しました。
    ・この事例は、ブランドが社会的な立場を明確にする際、単に「言う(Say)」だけでなく、物理的な形として「行う(Do)」ことの重要性を、世界のマーケターに再認識させました。

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