Apple『World Gallery』| 2015

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  1. 全体概要
    ・AppleがiPhone 6のカメラ性能とユーザーの創造性を示すために、世界中の「一般ユーザーが撮った写真」だけで巨大な屋外広告キャンペーンを構成したプロジェクトが「World Gallery(Shot on iPhone 6)」である。
    ・世界中の77人の撮影者による写真を、70都市・24カ国で展開し、街そのものを「iPhone写真のギャラリー」に変える構想で、Appleが従来のプロダクト写真中心の広告から大きく舵を切った点が特徴である。

  1. 課題・背景:スペック競争から「何が撮れるか」競争へ
    ・スマートフォン市場はAndroid勢との激しいシェア争いの中で、カメラ画素数やCPU性能などスペックの差別化だけでは優位性を保ちにくくなっており、iPhone 6も「実際にどんな写真が撮れるのか」を直感的に伝える必要があった。
    ・iPhoneはFlickrなどで「世界で最も使われているカメラ」の一つになっていたが、その事実やユーザーの写真文化を、ブランドコミュニケーション側では十分アピールしきれていないというギャップがあった。
    ・Appleは「Think different」期から続くブランドイメージを、テック企業というより「人々の創造性を引き出すブランド」として再定義し直す必要があり、その文脈でカメラの訴求方法をアップデートした。

  1. アイデアのコア:「世界中の風景を、そのまま屋外ギャラリーにする」
    ・世界中のユーザーがiPhone 6で撮った写真をキュレーションし、写真のクオリティだけで成立するミニマルなビジュアル(写真+「Shot on iPhone 6」+撮影者名)として屋外に掲出することで、「この写真もスマホで撮れる」という驚きを直接体験させる構造にした。
    ・写真はロケーションと文脈に合わせて厳選され、たとえば都市の高層ビル群の中にはドラマチックな街の写真、自然環境の近くには雄大な風景写真を置くなど、「見ている場所と写真の内容」が呼応するようなメディア設計になっている。
    ・プロ写真家だけでなく、Instagramなどで活動する人気ユーザーやアマチュアも積極的に起用することで、「誰でもこんな写真が撮れる」「あなたもこのギャラリーの一員になれる」という参加感と共感を生み出した。

  1. 実装・メディア展開:屋外・プリント・オンラインをつなぐ「World Gallery」
    ・屋外広告は世界79都市・26カ国、合計14,000以上の媒体面で展開され、そのうち770面以上が大型ビルボードという、グローバルスケールのメディアジャックに近いボリュームで実施された。
    ・ビルボードだけでなく、バスシェルターや地下鉄・鉄道駅構内、街路レベルの連貼りポスターなどを組み合わせ、「街を歩くと、そこかしこがiPhone写真のギャラリーになっている」ような環境デザインを重視していた。
    ・オフラインの掲出と連動して、Apple公式サイト上にオンラインの「World Gallery」を開設し、77人の撮影者による写真をまとめて閲覧できるギャラリーとして公開することで、屋外での出会いをデジタル側の深い鑑賞体験へと拡張した。
    ・ハッシュタグ「#ShotOniPhone6」を設けてSNS上での投稿参加を促し、ユーザーから継続的に作品が集まる仕組みにすることで、キャンペーンを単発ではなく「続いていくコミュニティ」として機能させた。
    ・後にはiPhone 6/6 Plusのビデオ作品も加わり、「Shot on iPhone」シリーズとして動画版のWorld Galleryへ発展していく、長期プラットフォーム型のアイデアになった。

  1. 結果・社会的インパクト:UGCを起点にした巨大なブランド体験
    ・キャンペーンは77人・70都市・24カ国の写真を用いたグローバル展開となり、世界中で約6.5億…ではなく「65億」レベルのメディアインプレッション(6.5 billion)を獲得したとされる。
    ・World Galleryが展開された都市では、対象人口の約90%にリーチしたとレポートされており、Appleとしてもかつてないスケールの屋外キャンペーンとなった。
    ・SNS上では、#ShotOniPhone6の使用が11,571%増、#ShotOniPhoneも2,422%増という極端な伸びを記録し、Appleが投稿を行わないにも関わらず、ユーザー発信のUGC主体でブランドの存在感が増幅される構造が成立した。
    ・チャットやニュースメディア、テック系ブログなど、24,000人以上のオピニオンリーダーに言及され、キャンペーンに関するポジティブな評価は95%に達したとされる。
    ・2015年前後にかけてiPhone販売台数は2億3,000万台以上へと伸長しており、すべてをこのキャンペーンの効果とは言えないものの、「カメラ品質=ブランド価値」の印象を世界規模で浸透させる役割を果たしたと分析されている。

  1. Cannes Lionsでの評価とクリエイティブ上の示唆
    Cannes Lions 2015では、Outdoor部門のグランプリと複数のゴールドを獲得し、審査員長のJuan Carlos Ortizは「単に優れたアイデアではなく、行動ややり方そのものを変える“ゲームチェンジャー”だ」と評している。
    ・プロが作った完璧なビジュアルではなく、「ユーザーが撮った生の写真」が世界最大級の屋外メディアを埋め尽くすという発想が、従来の「ブランド→生活者」の一方向コミュニケーションを逆転させている点が強く評価された。
    ・キャンペーンは、技術スペックや抽象的インサイトの説明ではなく、「広告そのものを巨大なプロダクトデモにする」アプローチの代表例として語られ、以後のスマホ・カメラ系コミュニケーションのひな型となった。
    ・ブランドの役割を「何かを語る存在」から「ユーザーの創造性をキュレーションし、舞台を用意する存在」へとシフトさせた点は、その後のUGC活用キャンペーンやプラットフォーム型ブランディングの潮流に大きな示唆を与えている。
    ・クリエイティブ的には、コピーもロゴも極限まで削ぎ落とし、「写真とごく小さなクレジットだけ」で成立させるミニマルなクラフトと、都市空間そのものをメディアとして再編集するコンテクスト・プランニングが組み合わさった点が、この事例の完成度を押し上げている。

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