Auchan『The Selfscan Report』| 2013

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  1. 全体概要
    ・ルーマニアのAuchanが、株主やビジネスパートナー、ジャーナリストに向けて発行した、世界で最も「正直」な年次報告書(アニュアルレポート)です。
    ・従来の厚手で豪華な冊子形式を完全に廃止し、スーパーのレシートと同じ感熱紙に全ての経営データを印字するという、前代未聞のスタイルを採用しました。
    ・「低価格」と「効率性」をブランドの柱とする企業姿勢を、報告書の「素材」そのもので表現した点が最大の特徴です。
    ・Cannes Lions 2013において、デザイン部門(Design Lions)でゴールドを受賞するなど、世界的な評価を獲得しました。

  1. 課題と背景:退屈な「年次報告書」をいかにブランド体験に変えるか
    ・一般的に、企業の年次報告書は数字の羅列で退屈なものが多く、コストをかけて豪華に作っても、最後まで読まれることは稀でした。
    ・Auchanは「ディスカウント・スーパー」として、徹底的なコスト削減と効率化を顧客に約束しており、報告書自体に多額の予算をかけることはブランドの理念と矛盾していました。
    ・「私たちは無駄を省き、その分を価格に還元している」というメッセージを、ステークホルダーに言葉ではなく「体験」として届ける必要がありました。
    ・信頼を勝ち取るために必要な「透明性(Transparency)」というキーワードを、どのようにクリエイティブに落とし込むかが大きな課題でした。

  1. アイデアと仕組み:レシートをメディア化する「究極の文脈設計」
    ・スーパーマーケットという業態において、最も象徴的な「情報の塊」である「レシート」をメディア(媒体)として再定義しました。
    ・全長4メートルにも及ぶレシート型のロール紙に、売上高、店舗数、市場シェア、今後の成長戦略といった全ての公式データを、レシート特有のフォントとレイアウトで印字しました。
    ・単に数字を並べるのではなく、個々のデータが「レシート上の商品項目」のようにデザインされており、読み進めることが「企業の買い物(投資と成果)」を追体験することに繋がりました。
    ・素材には実際の店舗で使用されている感熱紙を使い、印刷コストを極限まで抑えることで、企業努力を物理的に証明しました。

  1. 成果と評価:カンヌが認めた「デザインによる誠実さ」の証明
    ・この報告書はジャーナリストや投資家の間で大きな話題となり、通常は無視されがちな経営データが、多くのメディアで「ブランドの誠実さの象徴」として取り上げられました。
    ・Cannes Lions 2013の審査員からは、「メディア(媒体)とメッセージ(内容)がこれ以上ないほど完璧に一致している」と絶賛され、デザイン部門でゴールドを獲得しました。
    ・豪華なグラフィックや装飾に頼らず、タイポグラフィと素材の選択だけでブランド価値を伝えた「ミニマリズム」の好例として、デザイン業界に強いインパクトを与えました。
    ・「報告書を読み終わる=レシートをスキャンし終わる」というメタファーが、ブランドへの理解と納得感を深めることに成功しました。

  1. クリエイティブの示唆:日常の接点を「ブランドの証拠」に変える
    ・ブランドの約束(プロミス)を伝えるのに、必ずしも高価な広告枠や派手な演出は必要ないということを示しています。
    ・「何を作るか」と同じくらい「何で作るか」が重要であり、素材そのものが物語(ストーリー)を語る強力な武器になることを証明しました。
    ・企業活動の「裏側」にある経営報告というプロセスを、顧客との「接点」であるレシートに重ね合わせることで、心理的な距離を劇的に縮めています。
    ・「透明性」という言葉を並べる代わりに、最も質素で嘘のつけない形式(レシート)を提示する。これこそが、情報過多な時代のクリエイティブにおける「信頼の作り方」の正解の一つと言えます。

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