- 全体概要
・ブリティッシュ・エアウェイズが、ロンドンのピカデリー・サーカスとチジックに設置した、インタラクティブなデジタルビルボード(屋外広告)施策です。
・広告会社「OgilvyOne London(オグルヴィワン・ロンドン)」が制作し、2014年のカンヌライオンズ(Cannes Lions 2014)にてダイレクト部門のグランプリ(Grand Prix)を受賞しました。
・実際の空を飛んでいる自社便の航空機に合わせて、画面内の子供が空を指さし、その便名や出発地をリアルタイムで表示する画期的な仕組みです。
・「空を見上げる」という純粋な子供のような驚きを、最新のデータ追跡技術によって現代に蘇らせ、世界中で大きな話題となりました。
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- 課題と背景:飛行機への「慣れ」を「魔法」に変える
・かつては特別な体験だった「飛行機での旅」が、現代では日常的な移動手段となり、人々が空を見上げる際の高揚感や驚きが失われつつあることが課題でした。
・ブリティッシュ・エアウェイズは、競合他社との価格競争に陥るのではなく、自社の圧倒的なネットワークの広さと、「旅の魔法」を人々に再認識させたいと考えていました。
・屋外広告という伝統的なメディアを使いながら、デジタル世代の関心を惹きつけ、ブランドとの感情的なつながりを構築する新しい手法が求められていました。
・「飛行機がいかに遠くから、多くの物語を運んできているか」を直感的に伝えるための、テクノロジーの活用方法が模索されました。
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- アイデアと仕組み:ADS-Bデータとクリエイティブの同期
・航空機が発信する位置情報データ「ADS-B(放送型自動従属監視)」を活用し、看板の設置場所の上空を自社便が通過するタイミングを正確に予測する独自のカスタム・アンテナを構築しました。
・空に飛行機が現れる完璧なタイミングで、看板の中の少年が立ち上がり、指をさしながら「Look, it’s the BA475 from Barcelona.(見て、バルセロナからのBA475便だよ)」といったメッセージを表示させました。
・雲の高さや天候によって飛行機が地上から見えない場合には、アニメーションを作動させないように設定するなど、現実の視認性と厳密に同期させるプログラムが組まれました。
・単に便名を表示するだけでなく、その地点からの航空券の価格や、現地の気温などの「旅を想起させる情報」を動的に変化させて提示しました。
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- 効果と評価:ダイレクト部門グランプリが認めた「誠実なデータ活用」
・このキャンペーンは累計で3億5,000万回以上のインプレッションを記録し、広告を目にした人々の間で「空を見上げる」というポジティブな行動変容を巻き起こしました。
・ブリティッシュ・エアウェイズのウェブサイトへの訪問者は、チジックの看板設置後に周辺エリアで大幅に増加し、ダイレクトなビジネス成果にも寄与しました。
・カンヌライオンズの審査員からは、テクノロジーが全面に出るのではなく、あくまで「子供の純粋な驚き」という人間的なストーリーを語るための黒子に徹している点が高く評価されました。
・デジタル屋外広告(DOOH)を、単なる動画再生機から「現実世界と対話するライブメディア」へと進化させた先駆的な事例として認定されました。
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- クリエイティブ的示唆:文脈(コンテキスト)が魔法を生む
・膨大な「ビッグデータ」も、特定の時間・場所・個人の感情(コンテキスト)と結びついた瞬間、冷たい情報から心に響く「魔法」へと変わることを示しています。
・ユーザーに複雑な操作を強いるのではなく、受動的に「上を見上げるだけ」というシンプルな身体的動作を促す設計が、結果として深いエンゲージメントを生みました。
・現実世界の出来事(飛行機が通る)を広告の一部に取り込むことで、広告を「邪魔な存在」から「現実を拡張するエンターテインメント」へと昇華させました。
・ブランドが提供すべきは「スペック(便数)」ではなく、その先にある「体験への憧れ(インスピレーション)」であることを、テクノロジーを通じて証明した傑作です。



