- 全体概要
・キヤノン・オーストラリアと広告代理店 Leo Burnett Sydney が、一眼レフカメラ「EOS」シリーズのブランド力強化のために展開したオンライン参加型プロジェクトです。
・「写真は、次の誰かのインスピレーションになる」という思想のもと、ユーザーが投稿した写真の要素を次の人が引き継いで撮影していく、写真の連鎖(チェーン)を作るプラットフォームを構築しました。
・2010年の Cannes Lions(カンヌライオンズ) で、最も優れたダイレクト・マーケティング施策に贈られる Direct Grand Prix を受賞しました。
・デジタルプラットフォームを活用して、ユーザーに「カメラを持って外に出る」という具体的な行動を促し、ブランドへの深いエンゲージメントを生み出した点が高く評価されています。
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- 課題と背景:スペック競争からの脱却
・当時の一眼レフカメラ市場は、画素数や感度といった「技術スペック」の競争が激化しており、ブランド間の差別化が難しくなっていました。
・多くのユーザーが「良いカメラ」を所有していても、何を撮ればいいのかという「インスピレーション(撮影の動機)」を失っているというインサイト(洞察)がありました。
・キヤノンは単なる「機器メーカー」ではなく、人々の創造性を刺激し、写真の楽しさを広げる「クリエイティブ・パートナー」としての地位を確立する必要がありました。
・「カメラを売る」ことよりも先に、「写真を撮る理由」を人々に提供することが、結果としてブランドの好意度と売上に繋がると考えられました。
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- アイデアの仕組み:視覚的な「連想ゲーム」
・「Photochains」という専用のウェブサイトを立ち上げ、誰でも写真の連鎖に参加できる仕組みを作りました。
・ルールはシンプルで、「前の人が投稿した写真の中に含まれる特定の要素(色、形、被写体、テーマなど)」を一つ選び、それを含んだ新しい写真を自分で撮影してアップロードするというものです。
・例えば、赤いリンゴの写真が投稿されたら、次の人はその「赤色」を引き継いで赤い消火栓の写真を撮り、その次の人は消火栓の「金属の質感」を引き継いで古い車を撮る、といった具合に連鎖が伸びていきます。
・サイト上では、自分の写真が起点となって世界中でどのような連鎖が生まれているかを視覚的に確認でき、見知らぬ誰かと創造性でつながる喜びを演出しました。
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- 実装と成果:市場シェアを塗り替えたコミュニティの力
・サイト公開に合わせてテレビCMや屋外広告を展開し、実際にサイト上で生まれているユニークな連鎖を紹介することで、一般ユーザーの参加意欲を掻き立てました。
・最終的に 4万枚以上の写真 が投稿され、数千ものインスピレーションの連鎖がオーストラリア全土(および世界)に広がりました。
・このキャンペーンの結果、キヤノンEOSシリーズの市場シェアは 54%から67%へと急上昇 し、競合他社を圧倒する成果を上げました。
・広告が一方的なメッセージの送信ではなく、ユーザー自身がコンテンツの制作者となる「共創型メディア」として機能し、ブランドに対する強力なロイヤリティを構築しました。
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- 評価ポイントとクリエイティブ的示唆
・Cannes Lions 2010: デジタル上の仕組みが、ユーザーの「物理的な行動(外出して撮影する)」を強力に誘発し、ビジネス結果に直結させた点が、ダイレクト部門の最高峰として認められました。
・ゲーミフィケーションの活用: 「お題」をクリアしてチェーンを繋ぐというゲーム性が、撮影という行為に対する心理的なハードルを下げ、創造性を引き出す「ナッジ」として機能しました。
・ネットワーク効果: 自分の作品が誰かの刺激になるという「承認欲求」と、他者の視点から新しい発見を得る「探索の喜び」を組み合わせることで、コミュニティが自律的に成長する仕組みを作りました。



