- 全体概要
・「Abla Fahita」は、もともと広告用に作られたエジプトの毒舌パペットキャラクターで、のちにCBC局の看板タレントとして成長し、国民的なエンターテインメントブランドへと変貌したプロジェクトである。
・VodafoneのCM出演をきっかけに「テロの暗号を送る英国のスパイ」として国家の捜査対象にまでなったが、そのスキャンダルを逆手に取り「#FreeFahita」ムーブメントが生まれ、社会現象級の話題となった。
・JWT Cairoは、この“問題児キャラ”をCBCのプライムタイム番組「Live from El Duplex」の司会者に据え、広告キャラを超えた独立エンタメIPとして育成し、Cannes Lions Titaniumをはじめとする数々の賞を獲得した。
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- もともとのキャラクターと騒動の背景
・Abla Fahitaは2010年にオンラインで登場した“おしゃべりな未亡人”という設定のパペットで、辛辣なユーモアとタブーへの踏み込みで若い視聴者を中心に人気を集めた。
・2013年末、VodafoneのCMで「亡き夫のSIMカードを探す」ストーリーが、一部陰謀論者に「テロ攻撃の暗号メッセージ」と解釈され、検察が公式に捜査を開始する異常事態へと発展した。
・「パペットをテロリスト扱い」という過剰反応は国内外のメディアで嘲笑の対象となり、SNSでは #FreeFahita のハッシュタグでキャラクターを擁護する声が殺到し、一気に知名度と“反骨の象徴”としてのキャラクター性が強化された。
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- 問題をエンタメIPに変えたアイデア
・JWT Cairoは「スキャンダルで生まれた知名度」と「毒舌キャラの個性」を資産と捉え、Abla Fahitaを“ブランドのための広告キャラ”から“自立したエンタメブランド”へとポジショニングをシフトさせた。
・まずオンライン上での人気をテコに、エジプトの人気音楽プロデューサーHassan El Shafeiとコラボしたシングル「Mayestahloushi」をリリースし、数日でミリオンビューを獲得するヒットコンテンツに仕立てた。
・その後、CBCのプライムタイム枠でパペット司会のトークショー「Live from El Duplex」を立ち上げ、著名人ゲストとのトークや音楽パフォーマンス、視聴者参加企画などを通じて“番組そのものがブランドの旗艦メディア”となる構造をつくった。
・結果として、広告主側が所有するキャラクターがスポンサー依存の広告枠を超え、音楽・テレビ・ライブイベントまで拡張可能なIPビジネスへと転換する、新しい広告モデルを提示した。
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- 具体的な展開とメディア実装
・「Live from El Duplex」放送開始後、わずか5回のオンエアでCBC内視聴率1位、その2回後にはエジプト全体で視聴率2位に達し、パペット司会番組として異例の成功を収めた。
・キャラクターはテレビだけでなく、YouTube・Facebook・Twitterなどのソーシャル動画、モバイルコンテンツ、屋外広告などにも展開され、常に“次のエピソード”を期待させるストーリー連鎖でファンを巻き込み続けた。
・パペットという安全な“フィクション”を盾にしつつ、政治や社会の出来事を風刺するトークや毒舌インタビュー、セクシャルなダブルミーニングを多用したジョークなど、通常なら規制対象になりかねないタブー表現をエンタメとして昇華した。
・長期的にはNetflixオリジナルシリーズ「Abla Fahita: Drama Queen」へと展開されるなど、キャンペーン起点のキャラクターがグローバル配信コンテンツにまで育つIPライフサイクルを実現している。
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- 成果・社会的インパクト
・Abla Fahitaは、エジプトおよびMENA地域で“中東で最も有名な女性司会者のひとり”とまで評される存在となり、女性主体の風刺番組が少ないアラブ圏で、異例の女性(パペット)ホストとして象徴的な位置付けを得た。
・広告で生まれたキャラクターが社会的・政治的議論の中心に躍り出たことで、ブランドとメディアとポップカルチャーの境界が曖昧になり、“広告が文化の担い手になる”という事例として多くの論文・メディア研究でも取り上げられている。
・また、「テロリスト疑惑」から始まった騒動を、ユーモアと自虐で乗り越えた物語は、政情不安の続くエジプトで、権力への過剰な恐怖を笑い飛ばす一種の“カタルシス”としても機能したと評価されている。
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- Cannes Lionsでの評価とクリエイティブ示唆
・Abla FahitaはCannes Lions 2015でTitanium Lionを受賞し、エジプト史上初のTitaniumという快挙として報じられたほか、MENA Effiesでもゴールドを獲得し、“高いクリエイティビティと実効性を兼ね備えたケース”としてGunn Reportの「Cases for Creativity」に選出された。
・ジュリーや業界メディアは、「問題を好機に変えたこと」「広告主のためのキャラクターが、自立したビジネスとして成立する新しいモデルを提示したこと」「ブランド活動とポップカルチャーの統合に成功したこと」を高く評価している。
・クリエイティブ的には、①スキャンダルや炎上を“物語の第1章”にしてしまう構造、②メディア横断で継続可能なキャラクターIP設計、③社会風刺・タブー表現をユーモアで包むトーン&マナー設計、といった学びが他ブランドのエンタメ化戦略にも応用可能なポイントだといえる。



