- 全体概要
・「NEVER STOP RIDING」は、City of Buenos Aires(ブエノスアイレス市)の公共自転車システムの「24時間・自動運営化」を告知し、自転車通勤文化を定着させるために展開されたキャンペーンである。
・クリエイティブは The Community(La Comunidad)Miami が手掛け、ナイーブでユーモラスなイラストとコピーだけで「いつでも走り続けられる」自転車の魅力を伝えるビジュアルシリーズとして設計された。
・キャンペーンはプレス広告と屋外広告、そして実際の公共自転車のホイール広告として展開され、2015年 Cannes Lions では Press Grand Prix をはじめ複数のLionsを受賞している。
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- 渋滞都市ブエノスアイレスと公共自転車の課題
・ブエノスアイレスは深刻な渋滞と公共交通の混雑を抱えており、市は2010年から自転車レーンと公共自転車システムを整備し始めたが、当初はステーション3か所・1日平均100トリップ程度にとどまっていた。
・2015年時点では140km以上の自転車レーンと200以上のステーションに拡大し、年間1,100万トリップを提供する規模に成長したが、「いつ・どこで・どう使えるか」という認知はまだ十分ではなかった。
・それまで公共自転車は朝8時〜夜8時の時間限定運営だったため、「通勤の一部」としては使われても、「一日中頼れる移動手段」というイメージには至っていなかった。
・市が2015年に導入した新しい自動化システムにより、公共自転車は24時間運営となりステーションも拡大したが、その変化を市民に強く印象づけるコミュニケーションが必要だった。
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- 「追いかけっこする車輪」で24時間運行を可視化
・キャンペーンの核となるアイデアは、「自転車の2つの車輪」を、永遠に追いかけ合うモチーフとして描くことで「NEVER STOP RIDING(決して止まらない)」状態を視覚化することだった。
・具体的には、前輪と後輪をそれぞれ別のキャラクターに見立て、赤ちゃんと母乳、犬と自分のしっぽ、蛾と電球、リスと木の実など、「本能的に追い続けてしまう関係」をユーモラスなイラストで表現した。
・それぞれのビジュアルには、「The Buenos Aires Public Bike System Now Runs 24/7」というタグラインを手描きの書体で配置し、自転車チェーンの動きを思わせる線の揺らぎで「止まらない感じ」を強調している。
・「24時間運行」という機能情報を、時計や数字ではなく「終わらない追いかけっこ」という感覚的なメタファーに翻訳した点が、コピーとビジュアルの両方で貫かれている。
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- メディア展開と市民との接点づくり
・クリエイティブは、新聞などのプレス広告と、街中に掲出された屋外ボードとして展開され、都市空間のあちこちで「NEVER STOP RIDING」のビジュアルが目に入るよう設計された。
・さらに、公共自転車そのもののホイールにも広告ビジュアルがあしらわれ、走っている自転車自体が「動くポスター」となってメッセージを運ぶアウト・オブ・ホーム・メディアになった。
・この「街を走るメディア」と固定掲出のポスターが組み合わさることで、24時間運行する自転車システムの存在が、利用者だけでなく歩行者やドライバーにも自然に刷り込まれていく構造になっていた。
・The Community のケーススタディでは、このキャンペーンを「環境広告(environmental campaign)」として位置づけ、「街全体をキャンバスにして、自転車が当たり前の移動手段になる世界観を描いた」と説明している。
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- 効果・都市へのインパクト
・キャンペーンは、公共自転車システムの「24時間いつでも・どこからでも乗れる」という利便性に対する認知を高め、その「手軽さ・楽しさ」に関する話題を生み出したと評価されている。
・ブエノスアイレス市の担当者は、この公共自転車プログラムが 140km 以上の自転車レーン整備と合わせて、市民の通勤文化そのものを変え、「世界で最も自転車フレンドリーな都市トップ20」に入る原動力になったとコメントしている。
・2010年に3ステーション・1日100トリップから始まったシステムが、2015年には200ステーション以上・年間約1,100万トリップ規模へ拡大しており、キャンペーンもその成長を後押しする役割を果たしたとされる。
・「環境に優しい都市」「自転車で動き回れる街」というブランドイメージが強まり、ブエノスアイレスの都市政策全体に対する好意・注目を高める効果もあったと各種記事で言及されている。
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- Cannes Lionsでの評価とクリエイティブ上の示唆
・「NEVER STOP RIDING」は Cannes Lions 2015 の Press Lions でグランプリを受賞し、同部門の Art Direction / Illustration カテゴリーでも2つのゴールドを獲得した。
・さらに Outdoor Lions でも、Traditional Illustration でゴールド、Travel, Transport & Tourism でシルバーを受賞するなど、アートディレクションとイラストレーションのクオリティが高く評価された。
・プレス部門の審査では、「政治的な意思と都市政策を、シンプルで大胆なビジュアルアイデアに落とし込んだ点」と、「約4,500点の応募の中で、もっとも“ブレイヴ”かつ美しくクラフトされた作品」であることが受賞理由として挙げられている。
・クリエイティブ的な示唆としては、「24時間運行」「自動化システム」「ステーション数増加」といった機能情報を、スペックやインフォグラフィックではなく、誰もが直感的に理解できる「追いかけっこ」のメタファーに還元した点が大きい。
・また、公共政策の啓発キャンペーンでありながら、シリアスさよりもユーモアとビジュアルの楽しさを前面に出し、「乗ることそのものの喜び」を売り込むスタンスが、エコやインフラ系コミュニケーションの新しいトーンとして示唆的である。



