Metro Trains Melbourne『Dumb Ways to Die』| 2012

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  1. 全体概要
    ・2012年末に公開され、2013年の広告界を席巻した、オーストラリア・メルボルンの鉄道運営会社「メトロ・トレインズ」による鉄道安全啓発キャンペーンです。
    ・「トースターをフォークでつつく」「賞味期限切れの薬を飲む」といった「おばかな死に方」を、可愛らしいキャラクターが歌に乗せて紹介し、最後に「列車の近くで不注意に振る舞うこと」が最も愚かな死に方であると訴えました。
    ・YouTubeでの動画公開を皮切りに、楽曲配信、スマートフォンゲーム、教育ツールへと展開し、広告の枠を超えたIP(知的財産)へと成長しました。
    ・Cannes Lions 2013において、史上最多(当時)となる5つのグランプリを受賞し、クリエイティブが社会行動を変容させる力を世界に証明しました。

  1. 課題と背景:若者に無視される「従来の安全広告」
    ・鉄道会社にとって、駅のホームや踏切での不注意による事故は長年の課題でしたが、従来の「ショッキングな映像」や「厳格な警告」は若年層に全く響いていませんでした。
    ・多くの若者は自分を「無敵」だと感じており、当局からの「〜してはいけない」という命令口調のメッセージを無意識に遮断(フィルター)してしまう傾向にありました。
    ・鉄道事故の多くは「自業自得な不注意」から生まれるものであり、それをいかに「かっこ悪いこと」「避けるべきこと」として認識させるかがクリエイティブの焦点となりました。
    ・「安全」という退屈になりがちなテーマを、若者が自発的にシェアし、楽しみたくなるような「エンターテインメント」へ昇華させることが求められました。

  1. 施策の核:ギャップを生む歌とキャラクター、そして「教育の娯楽化」
    ・クリエイティブの中核は、中毒性の高いフォーク調のメロディに乗せて、21種類もの「おばかな死に方」を淡々と紹介するアニメーション動画です。
    ・パステルカラーの愛らしいキャラクターが、血まみれになったり切断されたりする「視覚的な残酷さ」と、音楽の「明るさ・優しさ」の強烈なコントラストが、視聴者の記憶に深く刻まれました。
    ・歌詞の最後に「列車のプラットフォームの端に立つ」「踏切を無視して横断する」ことを「最もおばかな死に方(The dumbest ways to die)」として配置し、鉄道事故を他の不注意な事故と同列に扱いました。
    ・視聴者に「鉄道は危険だ」と教え込むのではなく、「鉄道で事故に遭うのは、この動画のキャラクターと同じくらい『おばか』で恥ずかしいことだ」という社会的プレッシャーをユーモアで作り出しました。

  1. 圧倒的な成果:世界中でのバズと実社会への貢献
    ・YouTubeで公開されるやいなや、わずか24時間で250万回、1週間で2,000万回以上再生され、世界各国のメディアや個人のSNSで爆発的に拡散されました。
    ・キャンペーン開始後、メトロ・トレインズ管内での「ニアミス事故(事故になりかけた事例)」が21%減少するという、具体的かつ劇的な安全効果を記録しました。
    ・iOS向けにリリースされたゲームアプリは、100カ国以上のApp Storeで1位を獲得し、遊びながら安全ルールを学ぶプラットフォームとして長期的なエンゲージメントを築きました。
    ・楽曲はiTunesチャートでトップ10入りを果たし、学校の教材としても採用されるなど、広告の寿命を遥かに超えて社会に浸透しました。

  1. カンヌライオンズでの評価とクリエイティブ的示唆
    ・Cannes Lions 2013では、Film, PR, Radio, Direct, Integratedの5部門でグランプリを受賞し、単一のキャンペーンによる受賞数として歴史を塗り替えました。
    ・審査員からは、デジタルの拡散力、PRの話題性、そして何より「人々の行動を実際に変えた」という実効性が高く評価されました。
    ・重苦しいテーマを扱う際、「恐怖で縛る」のではなく「ユーモアで心を開かせる」アプローチが、現代のコミュニケーションにおいていかに強力であるかを提示しました。
    ・「広告を避ける層」に届けるためには、ブランドのメッセージを押し出す前に、まず「コンテンツとしての圧倒的な面白さ」が必要であるという、コンテンツ・マーケティングの極意を体現しています。

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