- 全体概要
・ 2015年、米自動車保険ブランドGEICOが、YouTubeなどのスキップ可能なプレロール広告を逆手に取った「UNSKIPPABLE」シリーズを展開し、「Family」「Elevator」「High Five」「Cleaning Crew」の4本で構成されるキャンペーンとして話題になった。
・「ほとんどの人が5秒後にスキップする」という視聴行動を前提に、最初の5秒以内にブランドメッセージを完結させ、その後は「何も起きていないようで、じわじわ面白い」状況を見せ続ける構造で、プレロールを「見たくなるコンテンツ」に変えた。
・このシリーズはCannes Lions 2015のFilm部門グランプリを獲得し、その後もOne ShowやClioなど主要賞を受賞、さらにAd Ageの「2016 Campaign of the Year」にも選出され、オンラインフィルム表現を更新した象徴的な事例となった。
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- 課題:嫌われフォーマット「プレロール」をどう料理するか
・2013年の調査で「94〜95%の視聴者がプレロール広告をスキップする」とされ、ユーザーは本編前の広告をほとんど見てくれないことが、動画広告主にとって大きな課題だった。
・多くのオンライン動画広告はテレビCMの尺や構成をそのまま流用し、最初の5秒ではブランドもオチも見えないため、スキップボタンが出た瞬間に離脱されるという構造的な問題を抱えていた。
・GEICOは大量出稿する保険ブランドとして、「嫌われがちな広告枠で好感と話題を同時に獲得すること」が競合との差別化と広告投資の正当化につながると考え、フォーマットそのものを問い直す必要があった。
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3. アイデアのコア:「もう終わった広告」という逆転の構図
・各フィルムは、冒頭2〜3秒で「節約」に言及するセリフが入り、すぐにナレーションが「You can’t skip this Geico ad because it’s already over(このGEICOの広告はもう終わったからスキップできません)」と宣言する構造になっている。
・ロゴが画面中央に大きく表示され、出演者は「エンドカードのフリーズ」のように動きを止めるが、背景では犬がテーブルの料理を食い荒らすなど、静止画のはずの世界で「じわじわ崩れていく」異化効果が仕込まれている。
・「Family」「Elevator」「High Five」「Cleaning Crew」それぞれでシチュエーションを変えつつ、共通して「メッセージとロゴは5秒以内に完了し、その後はひたすらオチに向かうだけ」というプレロール特化のフォーマットを徹底した。
・クリエイティブチームは「世界で最も嫌われているメディア枠を、むしろ自分から見に行きたくなるエンターテインメントに変える」ことを狙い、スキップという欠点そのものをアイデアのコアに変換している。
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4.実装と配信設計:4本シリーズとオンライン波及
・キャンペーンはYouTubeなどのスキップ可能なプレロール枠を主戦場とし、視聴者が必ず見る最初の5秒にコピー・ロゴ・ブランドメッセージをすべて詰め込むように設計された。
・4本のフィルムはそれぞれ15〜30秒前後で、テレビではなく「Non-Television(オンラインフィルム)」カテゴリーで評価されるよう、あくまでプラットフォーム起点のクリエイティブとして制作されている。
・ 1本目の「Family」は公開初日に72万5,000回の自然視聴を獲得し、その後もシリーズ全体がソーシャルで拡散され、「スキップしたくない広告」として業界メディアやブログに多数取り上げられた。
・制作会社や賞サイトが個別にケーススタディを発信し、「プレロール攻略の教科書」として、後年のYouTube広告ガイドやマーケティング記事でも繰り返し引用されるロングライフなリファレンスになっている。
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- 効果・インパクト:フォーマットの「再発明」
・キャンペーンは、極端なロゴ露出と「終わっているのに続く広告」という構造にもかかわらず、高い視聴完了率と自発的再生を生み、「嫌われ枠でも設計次第で好意と笑いを取れる」ことを証明したと評価された。
・視聴者はスキップする権利を持ちながら、「役者がいつ動いてしまうか」「犬が次に何をするか」といった小さなドラマを見届けるためにあえて見続けるという、メディア主導ではなく視聴者主導のエンゲージメントが生まれた。
・GEICOにとっては、ブランドの基本メッセージ(節約・Savings)を数秒で刻みながら、ユーモアと遊び心のあるブランドイメージをさらに強化する好例となり、同社のプレロール戦略や「軽くて楽しい」広告路線を象徴するキャンペーンとなった。
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- Cannes Lionsでの評価とクリエイティブ上の示唆
・Cannes Lions 2015ではFilm部門(Non-Television)でグランプリを獲得し、「動画のルールをすべて壊した」「プレロールという“最もセクシーでないメディア”を再発明した」と審査委員長がコメントしている。
・審査員は「長い物語の末尾にようやくブランドが出る」従来型と対比し、冒頭から巨大なロゴを出し続け、それでも見続けさせるという逆説的な構造を「だまし絵のような発明」として高く評価した。
・このシリーズはOne ShowのFilm Gold/Interactive Gold、Clio AwardsのGoldなど、複数の国際賞を席巻し、プレロールという枠を超えて「デジタル・フィルム全般の新しい語法」として位置づけられている。
・クリエイティブ面では、「嫌われる前提の体験をまず認めてしまう」「フォーマットの制約(5秒、スキップボタン)をアイデアの中核にする」「ロゴ露出などマーケ側の“我慢できない条件”を、むしろギャグに変える」といった、プラットフォーム時代の広告設計に通じる示唆を与えている。



