IBM『Smarter Outdoor』| 2013

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  1. 全体概要
    ・IBMが推進するグローバル・プラットフォーム「People For Smarter Cities」の一環として、フランス・パリとイギリス・ロンドンで展開された屋外広告キャンペーンです。
    ・従来の「情報を伝えるだけ」の看板を、物理的に「市民の役に立つ」ストリート・ファニチャー(街の家具)へと進化させました。
    ・広告の表面をわずかに曲げるという極めてシンプルなデザインにより、ベンチ、雨宿り用の屋根、階段のスロープという3つの機能を持たせています。
    ・Cannes Lions 2013において、屋外広告部門の最高賞である「Outdoor Grand Prix(アウトドア部門グランプリ)」を受賞し、広告と公共インフラの境界線を消し去った事例として歴史に刻まれました。

  1. 課題と背景:抽象的な「スマート」をいかに可視化するか
    ・IBMが掲げる「Smarter Cities」という概念は、ビッグデータやITインフラによる都市最適化を指しますが、一般市民にとっては専門的で実感が湧きにくい「遠い話」でした。
    ・当時の屋外広告(OOH)の多くは、単に視覚的な情報を押し付けるだけの「ビジュアル・ポリューション(視覚的公害)」として捉えられる側面もありました。
    ・IBMというブランドが、「IT技術で都市をスマートにする」だけでなく、「人々の暮らしを具体的に、そして人間中心に良くしていく存在である」と証明することが課題でした。
    ・そこで、広告自体が都市の一部として機能し、人々の日常の「ちょっとした不便」を解決するという、逆転の発想が求められました。

  1. アイデアと仕組み:広告を「街の解決策」に変えるデザイン
    ・「広告が役に立つ存在であれば、人々はブランドをより肯定的に受け入れる」という仮説に基づき、「役に立つ広告(Advertising with a purpose)」というコンセプトを策定しました。
    ・ポスターの端を上向きに曲げることで、雨の多い街で人々が雨宿りできる「ひさし(Rain Shelter)」を作りました。
    ・ポスターを下向きに曲げ、頑丈な構造を持たせることで、通行人が腰を下ろして休憩できる「ベンチ(Bench)」に変貌させました。
    ・階段の脇に設置されたポスターを斜めに傾けることで、重い荷物や自転車、ベビーカーを運ぶ人々を助ける「スロープ(Ramp)」としての役割を与えました。
    ・デザインは極めてミニマルで、鮮やかな原色とシンプルなアイコンを使用し、遠くからでもその「機能」が直感的に伝わるよう設計されました。

  1. 成果と評価:カンヌが絶賛した「言葉なきブランド体験」
    ・設置直後から、実際にベンチでくつろいだり雨宿りしたりする市民の姿がSNSで拡散され、「IBMは本当に街をスマートにしている」というポジティブな対話を世界中で生み出しました。
    ・専用サイトを通じて、市民から街をより良くするためのアイデアを募る導線を作り、ブランドと市民の共創関係を構築しました。
    ・Cannes Lions 2013の審査員は、「この施策には1行の説明も、高価なテクノロジーも必要ない。ただそこにあるだけでブランドの約束を体現している」と、その純粋さを高く評価しました。
    ・従来の「見る」広告から「使う」広告へとパラダイムシフトを起こした点、そして都市生活の質を向上させた点が、アウトドア部門グランプリの決定打となりました。

  1. クリエイティブの示唆:DOOH事業へ活かせる「価値の再定義」
    ・広告枠を単なる「情報を映す面」として捉えるのではなく、「その場所にあることで、その空間がどう便利になるか」というベネフィット設計の重要性を教えてくれます。
    ・「スマート(賢い)」とは、複雑なシステムを構築することではなく、人々のニーズを深くリサーチし、最もシンプルな形で解決策を提示することであるという、ブランド・パーパスの真髄を示しています。
    ・設置場所の文脈(コンテクスト)を読み解き、そこに「不足しているもの」を広告で補うという手法は、特定の場所(屋内など)に設置するDOOHにおいても強力な武器となります。
    ・ユーザーにとっての「実利(Utility)」を提供することが、デジタル時代のノイズの中で、最も確実かつ誠実にブランドへのロイヤリティを獲得する近道であることを証明しています。

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