Old Spice『The Man Your Man Could Smell Like』| 2010

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  1. 全体概要
    ・世界最大の一般消費財メーカーP&Gの男性用化粧品ブランド Old Spice(オールドスパイス) と、名門 Wieden+Kennedy (W+K) Portland によるボディーウォッシュの販促キャンペーンです。
    ・元NFL選手の Isaiah Mustafa(イザイア・ムスタファ) を起用し、不条理な設定とハイスピードな展開をワンカット(風)の映像で描いた、極めて独創的なコマーシャルです。
    ・2010年の Cannes Lions(カンヌライオンズ) において、最高の栄誉である Film Grand Prix を獲得しました。
    ・テレビCMから始まった施策を、YouTubeでのリアルタイム対話型キャンペーンへと進化させ、ソーシャルメディア時代の「ブランド・パーソナリティ」の在り方を定義しました。

  1. 課題と背景:ターゲットの再定義と「古臭さ」の払拭
    ・当時、Old Spiceは「おじいちゃんの匂い」というイメージが強く、若年層からの支持が低いという深刻な課題を抱えていました。
    ・競合他社(AXEなど)が若者向けのセクシーな訴求で成功する中、Old Spiceは自らのブランド資産をどう現代化するかが問われていました。
    ・徹底したリサーチにより、「男性用ボディーウォッシュの購入決定権の約60%は女性(パートナー)が握っている」という重要なインサイトを発見しました。
    ・この結果、広告のターゲットを「男性」ではなく、あえて「男性に良い匂いでいてほしいと願う女性」に設定するという大胆な戦略がとられました。

  1. アイデアの仕組み:完璧な脚本とアナログ特撮の融合
    ・冒頭の「Hello, ladies(やあ、レディたち)」というセリフに象徴されるように、画面越しに女性へ直接語りかける「二人称形式」を採用しました。
    ・バスルームからクルーザー、そして馬の上へと、背景が瞬時に切り替わる魔法のような演出を、CGに頼らず可能な限り「実写(アナログの仕掛け)」で実現しました。
    ・「自分を僕と比較して(Look at your man, now back to me)」という挑発的かつユーモラスな脚本により、ブランドに「自信に満ち、かつ茶目っ気のある」新しい人格を与えました。
    ・圧倒的な情報量とスピード感により、視聴者が思わず何度も見返してシェアしたくなる「バイラル性」を設計段階から組み込んでいました。

  1. 展開と効果:ソーシャルメディアを席巻した「レスポンス」の嵐
    ・スーパーボウル直前にオンラインで公開されるや否や爆発的な人気を博し、テレビ放送後もその勢いは衰えませんでした。
    ・第2フェーズとして、YouTube上で一般ユーザーや有名人からの質問に対し、ムスタファが動画で即座に返信する「Response Campaign」を48時間限定で実施しました。
    ・このレスポンス動画は計180本以上にのぼり、エレン・デジェネレスやアシュトン・カッチャーといった著名人を巻き込む巨大なムーブメントに発展しました。
    ・キャンペーン開始後、Old Spiceボディーウォッシュの売上は前年比で 107%増(2倍以上) を記録し、ブランドを市場シェア1位へと押し上げました。

  1. 評価ポイントとクリエイティブ的示唆
    ・Cannes Lions 2010: 単なる映像の完成度だけでなく、ブランドの「声」を再構築し、売上に直結させた「ビジネス・クリエイティビティ」が最高評価を受けました。
    ・双方向ブランディング: 広告を一方的な「放送」から、ユーザーとの「会話」へと変え、ブランドを「血の通った存在」に昇華させた点が極めて先進的でした。
    ・インサイトの勝利: 「使う人(男)」ではなく「買う人(女)」に語りかけるという、ターゲット設定の逆転送がマーケティング上の決定打となりました。
    ・クラフトの力: 低予算を感じさせない(実際には緻密に計算された)現場の工夫と演技力が、デジタル時代における「実写の驚き」の価値を再提示しました。

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