SoundCloud『The Berlin Wall of Sound』| 2015

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  1. 全体概要
    ・「The Berlin Wall of Sound」は、オーディオプラットフォーム SoundCloud が、ベルリンの壁崩壊25周年に合わせて制作した“音だけの記念碑(オーディオ・メモリアル)”で、Grey Düsseldorf / Grey Berlin が手がけたプロジェクト。
    ・ベルリンの壁で命を落とした人々を追悼し、その時代の恐怖と緊張感を「音の壁」として再構築することで、歴史を“情報”ではなく“体験”として感じさせることを狙った。
    ・7分32秒のサウンド作品で、これは「音がベルリンの壁155kmを伝わっていくのにかかる時間」をシンボリックに表した長さであり、その音の波形がベルリンの壁と監視塔の輪郭をなぞるようにデザインされている。
    ・SoundCloud のUIをキャンバスにして、銃声などのピークが“壁の輪郭”を描き、コメント欄には犠牲者を示すタグが並ぶなど、「プラットフォームそのものを追悼空間に変える」ブランデッド・コンテンツとなっている。
    Cannes Lions 2015 では Radio 部門のGrand Prix を受賞し、Clio Awards では Branded Content / Audio 部門のSilver などを獲得、サウンドとデジタルUIを融合させた記念碑的事例として評価された。

  1. 課題・背景:デジタル世代に「壁の記憶」をどう残すか
    ・ベルリンの壁崩壊から25年が経ち、若い世代にとっては「教科書の中の出来事」になりつつあり、分断や犠牲の記憶が風化しつつあった。
    ・とくにデジタルネイティブ世代は、テレビのドキュメンタリーではなくオンライン上の体験を通じて歴史と触れることが多く、従来の“記念式典”では届きにくい状況にあった。
    ・SoundCloud の本社オフィス自体が、かつて「ベルリンの壁の“死の地帯(Death Strip)”」に位置していたこともあり、プラットフォームとしてこの歴史とどう向き合うかが、ブランドの姿勢として問われていた。
    ・同時に、ブランド側には「単なる追悼キャンペーンではなく、SoundCloud だからこそできる表現で、音の力を証明したい」という意図もあり、プロダクトの本質(オーディオプラットフォーム)とテーマ(歴史の記憶)をどう結びつけるかがクリエイティブな課題だった。

  1. アイデアのコア:壁を「音の距離」として再構築する
    ・アイデアの核は「ベルリンの壁を音で再構築する」というコンセプトで、物理的な壁を“音の壁”に翻訳することで、見えない重圧や恐怖を体感的に伝えようとした点にある。
    ・7分32秒という中途半端に長い尺は、ベルリンの壁155kmを音が伝わる時間に対応させたもので、“時間=距離”として壁のスケールを感じさせるストーリーテリング装置になっている。
    ・音源には、旧東ドイツの政治家のプロパガンダ演説、国境警備兵の声、サイレン、群衆のざわめきなど当時を象徴する音がレイヤーされ、「ただの環境音」ではなく、息苦しさを伴う音響コラージュとして構成されている。
    ・SoundCloud の特徴的な波形UIに銃声などのピークを配置し、その稜線がベルリンの壁と監視塔のシルエットになるよう設計することで、「音を“建築物”のように見せる」ビジュアルコンセプトが生まれている。
    ・コメント欄はあえて閉じ、代わりに犠牲者を表すタグだけが並ぶことで、「誰かが何かを語る場」ではなく「静かに向き合う追悼の場」としての空気をつくっている。

  1. 実装と体験設計:SoundCloudを記念碑に変える
    ・メインの体験は SoundCloud 上の一つのトラックとして公開され、ユーザーは通常の楽曲と同じように再生するが、“プレイヤーの中身”がベルリンの壁の追悼空間に置き換わっている。
    ・再生時間全体を通じて、音量ピークと静寂が交互に訪れ、ヘッドホンで聴くと「見えない壁に沿って歩いている」ような感覚をつくるよう音響デザインされていると紹介されている。
    ・作品はベルリンの壁崩壊25周年に合わせて、ドイツ国内を中心に400以上のポッドキャストやメディアで一斉にシェアされ、デジタル上で“さまざまな場所に現れる記念碑”として広がった。
    ・Grey の公表によれば、リリース以降145,000回以上ストリーミングされ、SoundCloud上で歴史コンテンツとして異例のリスニング回数を記録したとされる。
    ・Federal Agency for Civic Education(ドイツ連邦政治教育センター)や音楽プロデューサー Porter Robinson などからも“インターネットを使ったもっとも美しく、不気味な追悼表現の一つ”といったコメントが寄せられ、カルチャー面での話題も喚起した。

  1. 結果・評価:賞賛と「これをラジオと呼べるか?」論争
    ・Cannes Lions 2015 では Radio部門 Grand Prix を受賞し、審査コメントでは「テクノロジーと戦略を高いレベルで組み合わせ、聴く者に恐怖と重さを感じさせる“音のミュージアム”のような体験」と評された。
    ・同作は Clio Awards 2015 でも Branded Content / Audio 部門でSilverを獲得し、ADC Germany ランキングでも Grey Germany を一気にトップ10入りさせた代表作として扱われている。
    ・一方で、ラジオ界のベテラン Tony Hertz らが「画面情報(波形+犠牲者の写真やタグ)に依存しており、“音だけ”として本当に成立しているのか」「SoundCloudを広告しているとは言い難い」と批判し、Radio Grand Prix の妥当性をめぐる議論が起きた。
    ・こうした論争は、「オーディオストリーミングとラジオの境界が曖昧になる中で、何を“ラジオ広告”とみなすか」「ブランド・プロモーションとアート/メモリアルの境界はどこか」という、現代のアワード評価軸そのものへの問いを浮かび上がらせた。
    ・総じて、作品としては強く支持されつつも、「ラジオ部門におけるGrand Prix 受賞」という点では賛否が分かれた事例であり、賞の在り方をめぐるメタな議論まで含めて語り継がれるキャンペーンになっている。

  1. クリエイティブ的示唆:プラットフォームを“場”に変える発想
    ・この事例は、ブランドが自社プロダクト(ここではSoundCloudのプレイヤーUIと波形表示)をそのままメディア/記念碑に変え、「媒体のインターフェース=メッセージ」にするアプローチの好例といえる。
    ・「長さ7:32」「波形が壁の輪郭をなぞる」「コメント欄を犠牲者タグで埋める」といったディテールまで、歴史的事実や象徴性に紐づけて設計している点は、“コンセプトとクラフトの完全な一致”という意味で学びが大きい。
    ・一方で、「アワードで評価されるか」「ブランドのビジネスにどう寄与するか」という観点では議論を呼び、クリエイティブにおける“アートと広告”“メモリアルとマーケティング”の線引きを改めて考えさせるケースになっている。
    ・ラジオ/オーディオ領域での表現として見ると、「音そのものの強度」と「画面上の情報」のバランスをどう設計するかが今後の課題であり、音声プラットフォーム起点のブランデッド・コンテンツを企画する際の、良い教科書かつ反面教師になりうる事例と言える。

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