- 全体概要
・ブラジルのサッカークラブ「フォルト・レキフェ」が、深刻な臓器ドナー不足を解消するために実施した、世界初の「サッカークラブによる臓器提供登録」キャンペーンです。
・「自分の心臓や目は、死後も別の誰かの体の中でチームを応援し続ける」というメッセージを掲げ、ファンを「不滅の存在(Immortal Fans)」として定義しました。
・単なる慈善活動の枠を超え、熱狂的なファンの「愛着」を「命を救う行動」へと変換した、エモーショナルかつ実利的なデザインが特徴です。
・Cannes Lions 2013では、「Promo & Activation」部門でグランプリ(最高賞)を受賞したほか、複数の部門で計10個以上のライオンを獲得し、世界中で絶賛されました。
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- 課題と背景:タブー視される「死」と深刻なドナー不足
・当時、ブラジルでは臓器提供に対する心理的な障壁が非常に高く、家族に死後の意志を伝える文化も乏しいため、臓器移植の待機リストが膨れ上がっていました。
・従来の啓発広告(「命を救おう」という道徳的な訴え)は、理性には届いても、人々の行動を促すほどの強い動機付けには至っていませんでした。
・フォルト・レキフェというクラブは、ブラジルでも特に情熱的で熱狂的なファン層を持つことで知られており、彼らの「盲目的なまでの忠誠心」をどう活用するかが鍵でした。
・「自分がいなくなった後の世界」という関心の薄い領域を、ファンにとって最も重要な「チームの応援」という文脈に接続することが最大のクリエイティブ課題でした。
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- アイデアと仕組み:情熱を移植するという「不滅」のロジック
・「死んだら終わり」ではなく、「あなたの心臓が移植されれば、その心臓はスタジアムで鼓動し続け、あなたの目はチームのゴールを見守り続ける」という物語を提示しました。
・クラブ公式の「臓器提供カード(Sport Donor Card)」を発行し、スタジアムやFacebookアプリ、郵送などを通じて、ファンが簡単にドナー登録できるインフラを整えました。
・キャンペーン動画では、実際に心臓や角膜の移植を待っている患者たちが「あなたの心臓でレキフェを応援し続ける」「あなたの肺でレキフェの歌を歌い続ける」とファンに語りかけました。
・このカードを所持することは、単なるドナーの証ではなく、チームへの「永遠の忠誠」を証明するファンとしての最高の栄誉である、という新しい価値観を生み出しました。
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- 効果・社会的インパクト:待機リストを「ゼロ」にした奇跡
・キャンペーン開始後、わずか1年間で51,000人(スタジアムの収容人数を超える数)以上のファンが新たにドナー登録を行いました。
・レキフェ市があるペルナンブーコ州での臓器提供数は、前年比で54%という驚異的な増加を記録しました。
・この結果、心臓移植と角膜移植の待機リストが「ゼロ」になるという、公衆衛生上の歴史的な快挙を成し遂げました。
・この成功はブラジル国内にとどまらず、パリ・サンジェルマン(PSG)やFCバルセロナといった世界的なメガクラブも同様のプログラム導入を検討するなど、世界的な潮流を作りました。
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- クリエイティブの示唆:ブランドパーパスを「命」のレベルへ
・ブランド(サッカークラブ)が持つ「熱量」を社会課題と結びつける際、正論ではなく「相手の最も大切にしている感情」を主語にする手法の有効性を証明しました。
・ドナー登録というハードルの高い行動を、「チームを永遠に応援できる権利」というベネフィットに変換した、見事な「リフレーミング(意味の書き換え)」の事例です。
・「Inside Experience」がテクノロジーを駆使したのに対し、本施策は「人間の根源的な情熱」というアナログな感情をデジタルとリアルで増幅させた点に強みがあります。
・広告賞での評価ポイントは、単なる話題性だけでなく、実際に「人の命を救い、社会システムに具体的かつポジティブな変化をもたらした」という圧倒的な実績にあります。



