Terre des Hommes『Sweetie』| 2014

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  1. 全体概要
    ・オランダの国際児童保護団体「テ・デ・ゾム(Terre des Hommes)」が、ウェブカメラを介した児童の性的搾取を告発するために実施したデジタル・潜入捜査プロジェクトです。
    ・アムステルダムのエージェンシー「LEMZ」が制作を担当し、Cannes Lions 2014においてGrand Prix for Goodを受賞したほか、チタニウム部門など複数の部門で高い評価を得ました。
    ・本物の子供を使うリスクを回避するため、CGI(コンピュータ・グラフィックス)で作り上げられた架空の10歳のフィリピン人少女「Sweetie」をネット上のチャットルームに配置しました。
    ・この施策は、単なる啓発キャンペーンの枠を超え、実際に2万人を超える性犯罪容疑者を特定し、国際刑事警察機構(インターポール)を動かすという実質的な成果を上げました。

  1. 背景と課題:闇に隠れた「Webカメラ越しの児童虐待」
    ・インターネットの普及に伴い、先進国の加害者が途上国の子供たちに対し、ウェブカメラを通じて性的行為を強要し対価を支払う「ウェブカメラ性観光」が世界的な社会問題となっていました。
    ・この犯罪は個人の私室という閉鎖空間で行われるため、従来の警察の捜査では実態を掴むことが極めて困難であり、多くの加害者が法の網を潜り抜けていました。
    ・児童保護団体としては、この見えない犯罪を可視化し、世界中の人々にその深刻さを認識させると同時に、法的機関を動かすための決定的な証拠を提示する必要がありました。
    ・しかし、捜査のために本物の子供を囮(おとり)に使うことは、倫理的にも法的にも絶対に許されないという高い壁が立ちはだかっていました。

  1. アイデアの仕組み:CGI少女「スウィーティー」によるデジタル潜入
    ・最新の3Dモデリング技術とモーションキャプチャを駆使し、本物の子供と見分けがつかないほどリアルな10歳の少女「Sweetie」をデジタル空間に生み出しました。
    ・スウィーティーは、捜査員の操作によってリアルタイムで会話や表情の変化を再現できるインタラクティブな存在として設計されました。
    ・彼女を複数のチャットプラットフォームに登場させ、加害者が接触してくるのを待つという「デジタルな罠」を構築しました。
    ・特殊なトラッキングシステムを併用することで、彼女に接触してきた加害者のIPアドレスやチャットログを自動的に記録し、身元を特定できるデータベースを作成する仕組みを整えました。

  1. 実装と成果:2万人以上の容疑者特定と法改正への影響
    ・わずか10週間のプロジェクト期間中に、世界71カ国から2万人以上の加害者予備軍がスウィーティーに接触し、金銭を提示して性的行為を要求しました。
    ・収集された膨大なデータはインターポール(ICPO)に提供され、オーストラリアやアメリカ、カナダなど世界各国で実際の逮捕者が出るなど、具体的な捜査へと直結しました。
    ・この施策は世界中のメディアで大きく報じられ、ウェブカメラを通じた児童虐待という「未知の犯罪」に対する国際的な認知度を一気に100%近くまで引き上げました。
    ・さらに、フィリピンなどの当事国におけるサイバー犯罪法の強化や、国際的な捜査協力体制の構築を加速させるという、法制度レベルでのインパクトを与えました。

  1. 評価と示唆:クリエイティビティが「解決不能」を突破する
    ・Cannes Lions 2014の審査員からは、「テクノロジーとクリエイティブが、人類にとって最も困難な問題の一つを解決するために使われた究極の例である」と絶賛されました。
    ・広告会社が「ブランドの課題」を解くのではなく、「社会の巨大な不条理」を解くためのエンジニアリング集団として機能した点が、クリエイティブ業界の役割を再定義しました。
    ・CGIという仮想技術を、現実世界の被害者を守るための「楯」として活用した発想の転換は、デジタルの善用における最高の手本とされています。
    ・私たちへの示唆は、解決不可能に見える問題であっても、既存の技術を新しい視点(この場合は倫理的な潜入捜査)で再構築すれば、世界を物理的に動かすことができるという点にあります。

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