- 全体概要
・UN Womenが、世界中に根深く残る女性への偏見と差別を可視化するために展開したプリント(印刷)およびデジタルキャンペーンです。
・ドバイを拠点とする広告会社「Memac Ogilvy」が制作を担当し、Cannes Lions 2014において、Integrated(統合)部門やPrint部門などで複数のゴールド・ライオンを受賞しました。
・Googleの検索窓に「Women should(女性は~すべき)」などのキーワードを入力した際に表示される「オートコンプリート(予測変換)」の実際の結果を、女性の口を塞ぐように配置したビジュアルが特徴です。
・広告費をほとんどかけずにSNSを通じて数億人にリーチし、世界中でジェンダー平等に関する激しい議論を巻き起こした、デジタル時代の草の根型キャンペーンの成功例です。
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- 課題と背景:アップデートされない「人類の本音」
・性差別は過去のもの、あるいは特定の地域だけの問題であるという「誤った認識」が、先進国を含む多くの社会に蔓延していました。
・UN Womenは、現代においても女性の権利が深刻に侵害されている事実を、言い逃れのできない「客観的な事実」として突きつける必要がありました。
・従来の統計データや報告書では人々の感情を動かすのが難しいため、より直感的で、かつ誰もが日常的に接しているツールをメディアとして活用することが求められました。
・クリエイティブチームは、人々が検索エンジンに対しては「誰にも言えない本音」をさらけ出すという、インターネット心理学的な側面に着目しました。
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- アイデアと仕組み:検索窓を「沈黙の象徴」にする
・「women should(女性は~すべき)」「women shouldn’t(女性は~すべきでない)」「women need to(女性には~が必要だ)」といったフレーズをGoogleに入力し、実際に表示された予測変換をそのままコピーとして採用しました。
・検索結果には「vote(投票する)」「work(働く)」「have rights(権利を持つ)」といった単語に対して、「shouldn’t(すべきでない)」という否定的な予測が上位に並び、現代社会の偏見を浮き彫りにしました。
・ビジュアルでは、女性の肖像写真の「口」の位置に検索バーを配置し、社会的な偏見が女性たちの声を奪い、自由を制限していることを象徴的に表現しました。
・Googleの検索アルゴリズムが「多くの人が実際に検索している言葉」を優先的に表示するという仕組みを利用することで、これが一部の意見ではなく「世界の平均的な思考」であることを証明しました。
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- 効果と社会的インパクト:国境を超えた「真実」の拡散
・当初は小規模なプリント広告としてスタートしましたが、その衝撃的な内容がFacebookやTwitter(現X)で爆発的にシェアされ、公開から数日で世界100カ国以上に拡散されました。
・2013年で最もシェアされたソーシャルキャンペーンの一つとなり、CNN、BBC、Time誌など主要メディアがこぞって取り上げ、推定で約4億7,000万件以上のインプレッションを獲得しました。
・世界中の人々が自分たちの言語や地域で同様の検索を行い、自国に潜む偏見をスクリーンショットで共有する「セルフ・ディフュージョン(自己拡散)」現象を引き起こしました。
・このムーブメントは、国連本部でのジェンダー平等に関する議論に直接的な影響を与え、社会制度の変革を求める署名活動や寄付の増加に大きく寄与しました。
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- クリエイティブ的示唆:データの「否定不可能な力」
・カンヌライオンズの審査員からは、極めてシンプルかつミニマルなデザインでありながら、これ以上ないほど強力な「証拠」を提示した点が絶賛されました。
・ブランド(この場合は国連)が何かを主張するのではなく、テクノロジーが吐き出した「事実」をそのまま見せることで、反論の余地をなくすという戦略が極めて有効に機能しました。
・ビッグデータをグラフや数字としてではなく、人々の心に突き刺さる「言葉」と「ビジュアル」として再定義したことで、クリエイティブにおけるデータの新しい活用法を提示しました。
・予算規模に関わらず、人間の深層心理に根ざした「インサイト(無意識の本音)」を突くアイデアがあれば、世界規模の変革をリードできることを証明した傑作です。


