- 全体概要
・オーストラリア・ビクトリア州の地域鉄道運行会社「V/Line」が、都市部の若者を地方の実家へ帰省させるために実施したキャンペーンです。
・広告会社「McCann Melbourne(マッキャン・メルボルン)」が制作を担当し、2014年のカンヌライオンズで「Creative Effectiveness Grand Prix」を受賞しました。
・「Guilt Trip(罪悪感を抱かせる旅)」という言葉をそのまま商品名にし、親が都会で暮らす子供に「罪悪感」を込めて送るプリペイド式チケットを販売しました。
・単なるイメージ広告ではなく、鉄道の利用客数と収益を劇的に増加させた「ビジネスを動かすクリエイティブ」の究極の成功例として知られています。
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- 課題とインサイト:放置された地方の親と「忙しい」子供たち
・当時、地方都市を結ぶV/Lineは、利用者の減少と収益の伸び悩みに直面しており、特にオフピーク時の座席を埋めることが急務でした。
・ターゲットは「都市部へ移り住んだ若者」ですが、彼らは都会の生活に忙しく、実家の両親に会いに帰ることを後回しにする傾向がありました。
・一方で、地方に残された親たちは「もっと顔を見せに来てほしい」という強い願いを持っていましたが、それを直接言うのは憚られるという心理的背景がありました。
・調査の結果、都会の若者たちは「親を放置していること」に対して潜在的な「罪悪感(Guilt)」を抱いており、それが行動を促す最大のレバーになるというインサイトを導き出しました。
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- アイデアの仕組み:「罪悪感」を可視化するギフトカード
・親がオンラインや駅で購入し、都会の子供に郵送できる特別なプリペイドチケット「Guilt Trip」を開発・販売しました。
・このチケットには、親が子供に対して抱いている(しかし口には出しにくい)不満や皮肉を、ユーモラスな「罪悪感を煽るメッセージ」として添えられるようにしました。
・メッセージ例には、「あなたが帰ってこないから、代わりに近所の子を可愛がっているわ」「あなたの部屋はもう物置にしたから」「私たちが元気なうちに会いに来なさい」といった、思わず苦笑してしまうリアルな内容が含まれていました。
・物理的な「ギフトカード」という形にすることで、メールや電話よりも「無視できない重み」を持たせ、帰省を具体的な予定に変えさせる仕組みを作りました。
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- 実装と展開:ユーモアで包んだ「親の本音」の拡散
・キャンペーンサイトでは、親が簡単にチケットを購入し、子供の「罪悪感のレベル」に合わせた最適なメッセージを選べるインターフェースを提供しました。
・テレビCMやラジオ、屋外広告では、地方に住む親たちが「都会の生活がいかに空虚で、実家がいかに素晴らしいか(あるいは親がどれほど寂しがっているか)」をシュールに訴える動画を展開しました。
・ソーシャルメディアでは、実際にチケットを受け取った子供たちがその「罪悪感たっぷり」なギフト内容を投稿し、大きな話題を呼びました。
・鉄道会社という公共性の高い組織が、あえて「親子の微妙な心理」というプライベートな領域にユーモアを持って踏み込むことで、ブランドへの親近感を一気に高めました。
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- 効果と評価:ネガティブをポジティブに変えた創造的有効性
・キャンペーン期間中にV/Line全体の売上は15%増加し、追加のチケット販売によって約400万ドルの増収を達成しました。
・投資収益率(ROI)は「20:1」という驚異的な数値を記録し、広告費に対して極めて高いビジネス効果があったことが証明されました。
・2014年カンヌライオンズの審査員は、「この施策は単に面白いだけでなく、複雑な心理(罪悪感)を巧みに利用して行動を促し、明確なビジネス成果を上げた」と絶賛しました。
・クリエイティブ的な視点では、ブランドの役割を「移動手段の提供」から「疎遠になった家族の絆を修復するきっかけ」へと再定義した点が最大の成功要因と言えます。



