Vodafone『Between Us』| 2015

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  1. 全体概要
    ・「VODAFONE BETWEEN US」は、トルコのVodafoneが家庭内暴力にさらされる女性を守るために開発した、秘密のアラーム機能付きスマホアプリ「Red Light Application」を軸にしたソーシャル・キャンペーン。
    ・一見ただの「懐中電灯アプリ」に見せかけつつ、危険な状況でスマホを“振るだけ”で助けを求めるSOSを送れる仕組みを提供し、「加害者に気づかれずに助けを呼べる」ことを実現した。
    ・時間の経過とともに男性側にも存在が知られ始めたため、アプリ名・アイコン・プロモーション手法を刷新し、「Between Us(私たちのあいだだけ)」として“女性だけが知る”第二フェーズを構築した。
    ・その結果、トルコの女性スマホユーザーの約24%にあたる25万人以上がアプリをダウンロードし、10万回以上起動されたとされ、Vodafoneは「命を守るテクノロジー企業」としての信頼とイノベーションイメージを強化した。
    Cannes Lions 2015ではMedia部門グランプリを受賞し、その後もWARC Innovation Prizeなど各国アワードを多数受賞するなど、CSR×モバイル×メディアアイデアの代表作として評価されている。

  1. 課題・背景:家庭内暴力と「沈黙する」スマホ
    ・トルコでは「3人に1人(ある調査では2人に1人)」の女性が家庭内暴力の被害者と言われる一方、加害者は多くの場合パートナーや家族であり、その場で声を上げることが極めて難しい状況にあった。
    ・スマホは常に手元にあるにもかかわらず、「電話をかける」「SOSメールを打つ」といった動きは加害者にすぐ気づかれてしまい、実際の逃げ道として機能していなかった。
    ・Vodafoneはトルコ唯一の外資系モバイルプロバイダーとして、通信インフラ提供だけでなく「テクノロジーで社会問題を解決する企業」であることを示し、ブランド好意と信頼を高めたいというマーケティング課題も抱えていた。

  1. アイデアのコア:懐中電灯アプリに隠した“振るだけSOS”
    ・2014年にローンチされた「Red Light Application」は、表向きはシンプルな懐中電灯アプリだが、設定した3人の信頼できる相手に向けて、端末を“振るだけ”で事前に登録したメッセージと現在地を送信できるよう設計された。
    ・アイコンや機能説明には暴力・SOSといった文言をいっさい入れず、「ライトアプリ」に擬態させることで、加害者にアプリの真の目的を悟られないようにしている。
    ・しかしローンチから1年ほどで男性側にも存在が知られ始め、「見つかってしまったら逆効果になりうる」という新たなリスクが発生したため、チームはアプリ名・ビジュアル・配布経路を再設計する必要に迫られた。
    ・そこで生まれた第二フェーズのコンセプトが「Between Us」であり、「私たち女性だけが知っている秘密のアプリ」という意味合いを名前そのものに込めて、再び匿名性と安全性を高める方向へ舵を切った。

  1. 実装とメディア戦略:男性の目に触れさせないコミュニケーション
    ・アプリの性質上、テレビCM・屋外広告・ラジオといったマス媒体で広く告知すると男性加害者にも情報が届いてしまうため、それらのメディアはあえて一切使わない方針が採られた。
    ・その代わり、オンラインのコスメティック動画チュートリアルの最後にだけアプリの存在を示すメッセージを差し込むなど、「女性視聴者が多く、男性がほとんど見ない」コンテンツに限定して情報を埋め込んだ。
    ・女性用トイレの個室ポスターや、脱毛ワックス・アンダーウェアなどの女性向け商品パッケージにも、さりげない形でアプリダウンロードの手がかりを印刷し、「女性同士のクチコミと気づき」で広がる導線をつくった。
    ・アプリはCannesに出品する際も、男性に実態が広く知られないよう配慮して別名義で登録したと報じられており、「守るべきユーザーの安全」を最優先した運用が徹底されている。

  1. 結果・社会的インパクト:命を守り、行動を変えるテクノロジーへ
    ・キャンペーンの結果、25万人以上の女性がアプリをダウンロードし、これはトルコの女性スマホユーザーの約24%に相当すると報じられている。
    ・アプリの“振るだけ”SOS機能は累計10万回以上起動されており、その多くが実際の危険な状況で利用されたとされ、「行動変容」と「命を守る具体的な手段」を同時に生み出したCSR事例として高く評価された。
    ・学術的な分析でも、「単に問題を可視化するのではなく、ターゲットに実際の行動変化(助けを求めるという行為)をもたらしたデジタルCSRキャンペーン」として、社会貢献とブランド戦略を両立させたケースとして紹介されている。
    ・Vodafoneにとっては、「安い・速い」だけではない“社会的に頼れるブランド”というイメージを強く打ち出し、企業側も「テクノロジーを人のために使う」姿勢を対外的に証明する場になった。

  1. Cannes Lionsでの評価とクリエイティブ的示唆
    ・Cannes Lions 2015では、Media部門でグランプリ、さらにMobile・Promo & Activationなど複数部門でメダルを獲得し、「企業のCSRキャンペーンがNGO並みの説得力とオリジナリティを持ち得る」ことを示したと評された。
    ・Media部門審査委員長のNick Emeryは、「企業キャンペーンとNGO的アプローチの“いいとこ取り”」「テクノロジーを核に、女性一人ひとりにパーソナライズされたメディアアイデア」とコメントし、“メディアに根ざしたアイデア”としての完成度を強調している。
    ・またWARC Innovation Prizeなどでは、「単なるハイテクガジェットではなく、シンプルだが本当に役に立つテクノロジー」「コーポレートブランドのイメージと社会課題をつなぐ真のイノベーション」と評価されている。
    ・クリエイティブ的な示唆としては、①“決して大声で宣伝できない”サービスにこそメディア発想が重要であること、②マス露出を諦める代わりに「誰にだけ届けばいいか」を徹底的に絞り込むこと、③ユーザーの安全性を最優先しながらも、テクノロジーとコミュニケーションを一体で設計すること、などが挙げられる

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