VOLVO『Life Paint』| 2015

Rate!
  1. 全体概要
    ・VolvoとGrey Londonが開発した「LifePaint」は、夜間にサイクリストや歩行者を車から“見える存在”にするための反射スプレーで、日中は透明だが、ヘッドライトの光を受けると強く光る。
    ・スプレーは衣服・靴・ヘルメット・子ども用ベビーカーやバックパック、犬のリードなど、繊維系の素材に吹きかけて使い、約1週間ほど効果が持続し、水洗いで落とせる仕様になっている。
    ・Volvoはスウェーデンのスタートアップ「Albedo100」と提携し、“車内の安全”だけでなく「車の外にいる人の安全」まで守るブランドとしての姿勢を示すプロダクト・イノベーションとして位置づけた。
    ・キャンペーンはオンラインフィルムや特設サイト、店頭体験を組み合わせて展開され、Cannes Lions 2015ではDesign部門とPromo & Activation部門でグランプリを受賞するなど、世界的な評価を受けた。

  1. 課題:夜間の自転車事故と「ボルボ安全」の拡張
    ・イギリスでは年間1万9,000人以上のサイクリストが交通事故に巻き込まれており、特に夜間・薄暮時の“見えにくさ”が大きな要因とされていた。
    ・既存のハイビズジャケットや反射ベストは「ダサい」「普段着に合わない」と敬遠され、日常的な移動で自転車に乗る人ほど十分な装備をしていないというギャップがあった。
    ・Volvoは、3点式シートベルトやIntellisafeなどの技術で“安全の代名詞”となっていたが、その安全哲学を「Volvo車に乗る人」だけでなく、道路を共有するサイクリストや歩行者へどう拡張するかが次の課題になっていた。

  1. アイデアのコア:見えないものを「光るスプレー」で可視化する
    ・LifePaintは、ヘッドライトの光を受けたときだけ強く反射する粒子を含んだスプレーで、「見えない=危険」を「見える=安全」に変える“プロダクトそのものがアイデア”のキャンペーンとして設計された。
    ・日中は完全に透明なため、お気に入りの服や鞄、自転車用の普段着の上から吹きかけても見た目が変わらず、「ファッションを犠牲にしない安全対策」という新しい選択肢を提示した。
    ・コンセプトは「The best way to survive a crash is not to crash(クラッシュで生き残る最善の方法は、そもそもクラッシュしないこと)」で、Volvoの予防安全思想と強く結びつけられている。
    ・プロダクトのインスピレーションには、歩行者・サイクリスト検知機能やアクティブ・ベンディング・ヘッドライトなどを組み合わせた安全システム「Intellisafe」と、死亡重傷者ゼロを目指す「Vision 2020」があり、“車の技術”を“路上の人たち”に翻訳した形になっている。

  1. 実装:ショップ配布とデジタル体験のデザイン
    ・ローンチ時には、ロンドンおよび周辺エリアの6つの自転車ショップで2,000本のLifePaintを無料配布するパイロットを行い、「まずはコミュニティで試してもらう」形で導入された。
    ・パイロット分は24〜72時間で完売・品切れになったと報告され、その反響を受けて、後にディーラー網を通じた販売やハロウィン前のリテール展開など、継続的な商品化へと発展した。
    ・Grey Londonは、通勤・メッセンジャー・事故経験者など様々なサイクリストのインタビューと夜間撮影を組み合わせたオンラインフィルムを制作し、「光る/光らない」のコントラストで効果を視覚的に体験させる構成にした。
    ・特設サイトでは、#volvolifepaint のInstagram投稿を集約し、使用例やユーザーの反応をリアルタイムに見せることで、単なるプロダクト告知ではなく“社会実験への参加”として感じられる体験設計にしている。
    ・デジタル面では、約600万ビューの動画再生、130万〜1億3,000万規模のTwitterインプレッション、4万件以上のサインアップなどが記録され、PRとソーシャルを通じたグローバルな話題化に成功したと報告されている。

  1. 反響と議論:賞賛とともに生まれた批判
    ・多くのメディアやクリエイティブ業界では、「車の広告」ではなく「命を守るプロダクト」を世に出したブランド・アクションとして称賛され、Volvoの“安全ブランド”イメージをさらに強化したと評価された。
    ・一方で、サイクリングコミュニティの一部やジャーナリストからは、「本当にヘッドライトで十分に光らない」「Instagram向けのスタントではないか」といったレビューや、「ドライバー側ではなく被害者側に責任を押しつける」とする批判も出た。
    ・2017年には、Volvoが公開していたLifePaintのオンライン動画について、金属フレーム部分の光り方が実際のLifePaintではなく別の油性製品によるものであった点が問題視され、英国ASA(広告基準局)が「性能を誇張し誤解を招く表現」として広告の差し止めを決定している。
    ・この議論は、「ソーシャルグッドなアイデア」であっても、実際の製品性能や安全性の伝え方については従来以上に厳格な検証が必要であること、また“善い意図”があってもコミュニティからの視点(被害者 blame になっていないか)を繊細に扱う必要があることを示したケースとされる。

  1. Cannes Lionsでの評価とクリエイティブの示唆
    ・LifePaintは Cannes Lions 2015 において、Design部門とPromo & Activation部門でグランプリを受賞し、さらにInnovationやCyber、Directなど複数部門でメダル・ショートリストを獲得した、“その年を代表するキャンペーン”のひとつとなった。
    ・Promo & Activationの審査員長は、「Volvoの長年の安全戦略を、車の内側だけでなく社会全体へのパーパスに拡張し、実際に命を救いうる簡便なソリューションに落とし込んだ」と述べ、“実利とクラフトが両立したアイデア”として高く評価している。
    ・クリエイティブ面では、「広告で安全を語る」のではなく「安全そのものをデザインして配布する」という発想転換と、そのプロダクトローンチをフィルム・デジタル・PR・リテールで統合した“インテグレーテッド・イノベーション”がベンチマークとなった。
    ・同時に、後年のASA判断が示したように、「イノベーション×社会課題」のクリエイティブでは、プロダクトの限界やリスク、コミュニティの視点まで含めた“誠実さのデザイン”が欠かせないことも、この事例から学べる重要な示唆となっている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です